三隣亡という言葉を知っている方も多いでしょう。
「この日に家を建てると三件隣まで火事になる」と言われる凶日となります。この三隣亡、昔は「三輪宝」で建築すると家が栄える吉日だったとか…この三隣亡についてです。
三隣亡とはどんな日
三隣亡は暦注の一つで「建築関係者の大凶日、棟上げや土起こしなど建築に関することは一切忌むべき日、この日に建築を行うと火災がおこり、近隣三軒を焼きほろぼす」となっています。
三隣亡の読み方は「さんりんぼう」
三隣亡の読み方は「さんりんぼう」です。
三隣亡の決め方
三隣亡は節切りで、正月、4月、7月、10月は亥の日、2月、5月、8月、11月は寅の日、3月、6月、9月、12月は午の日を当てています。
月 | 三隣亡の日 |
---|---|
1月 | 亥の日 |
2月 | 寅の日 |
3月 | 午の日 |
4月 | 亥の日 |
5月 | 寅の日 |
6月 | 午の日 |
7月 | 亥の日 |
8月 | 寅の日 |
9月 | 午の日 |
10月 | 亥の日 |
11月 | 寅の日 |
12月 | 午の日 |
三隣亡の由来
三隣亡の由来は全くの不明となっていますが、暦の歴史を紐解くと幕末あたりに民間暦で大流行したのが元となっているようです。
複数ある三隣亡の由来
この三隣亡に関してはいくつかの書籍に掲載されています。
この日に棟上げなどを行うと、後日火災に見舞われ、三軒隣まで焼き亡ぼすとされたのが語源。陰陽道から発した民間信仰で、室町末期から見られるが、とくに明治時代以後に広まった。
山口佳紀『暮らしのことば新語源辞典』 講談社,2008.11,p.407より引用
普請・造作などの最凶・最悪の忌み日で、特に土木建築関係者の間でいわれる。三隣亡の語は、この日に家を建てると火事にあい、隣近所三軒まで類を及ぼすことによるという。江戸時代の古い雑書では三輪宝とし、「屋立てよし、蔵立てよし」とされていたが、いつのころからか逆に解されるようになった。
加藤友康, 高埜利彦, 長沢利明『年中行事大辞典』 吉川弘文館,2009.3,p.329.より引用
もともとは「三輪宝」と書き、山林で働く職人や大工たちが、山の木々に感謝する日として、仕事の手を休めた日でした。共に働く馬や牛もその日はお休み。三宝にお酒やお米、塩などをお供えし、手を合わせて山での無事と安全を祈願しました。
井上象英『365日、暮らしのこよみ』 学研プラス,2021.2,p.29より引用
さまざまな書籍に書いてあることが全部別ですね。明治から始まったのか本当に室町時代にはすでにあったのか…これらから推測するに、三隣亡の由来は本当にはっきりしたものはないというのがわかります。
三隣亡は三輪宝
この三隣亡、昔は三輪宝で「建築の吉日であった」というのは下記の書籍から来ているように思います。
三隣亡という大凶日は、実は江戸時代、明治以降の官暦にはいっさい掲載されたことがない。(中略)江戸時代の古い雑書などには、「三輪宝」と記されており、「屋立てよし」「蔵立てよし」と注記されてあるので、これはもともとめでたい日であった。これが、いつ頃からか「やたてあし」「くらたてあし」に変わっていった。筆者が思うに、暦の編者がある年、前年の「よ」を「あ」に写し間違え、それで何年かあと三輪宝が「あし」では都合が悪いということになり、「三隣亡」と造語したのではないだろうか。このように、三隣亡はもともと由緒のはっきりしない暦注である。しかし(中略)幕末に庶民の間で流行し、明治時代、おばけ暦に記載され、今日の流行を見るようになった。
岡田芳朗, 阿久根末忠『現代こよみ読み解き事典』 柏書房,1993.3 p.166より引用
この著者の方が「三隣亡=三輪宝」で誰かが間違って書いたのではないか、と推測されていますね。これがまことしやかに広がったのでしょう。
ただこの方も推測の域を出ていません。しかし、幕末に庶民の間で流行して明治以降に民間暦に掲載されるようになり、現代でも三隣亡が「建築関係者の大凶日、棟上げや土起こしなど建築に関することは一切忌むべき日、この日に建築を行うと火災がおこり、近隣三軒を焼きほろぼす」となって、忌み日の一つとなったのは本当です。
おばけ暦と三隣亡
さて、ここでおばけ暦という不思議な言葉が出ましたね。
このおばけ暦は暦好きなら一度は知りたい、政府非公認の幻の暦なのです。
以前、春節の記事でもご紹介しましたが、日本は明治6年にそれまでの太陰暦を使った暦からグレゴリオ暦を使った暦に変えました。この時、明治政府は「俗信や迷信の類を一切排除して新しい日本を作る」ということを名目に暦を厳しい統制化において、好き勝手なカレンダーを作らせませんでした。神宮司庁しか発行できなくしたのです。
これまで十二直を見ては「今日は吉日!宝くじ買っちゃお!」「今日は凶日、何事も悪し〜!!!」とか一ヶ月は新月から次の新月までとかやってたのが、急に30日か31日か28日で一ヶ月となったわけです。しかもその日の吉凶もわかりません。
結婚や七五三や戌の日の帯、葬式、法要など日々の吉凶を気にして暮らしていた庶民にとってはたまったものではありません。お祝い事をしたくてもその日が凶日だったら大変です。庶民の生活は暦によって作られていて正月準備からひな祭り、七夕に年末の煤払いだって暦と一緒だったのです。
そこで生まれたのが「おばけ暦」です。
おばけといわれる理由は、官憲の目の逃れてのもぐり出版であったため、毎年発行所を変え、出没自在、編集発行人は京都市下京区鍵屋町藤の井徳兵衛とか、大阪市西区新町福永嘉兵衛といった具合に、いかにも縁起のよい名を記すが、その正体は不明、といったところから名付けられたのである。
『暦の百科事典』(暦の会/編 本の友社 1999.11)より引用
この「おばけ暦」が生まれたことによって、これまでは十二直が主流だったものが六曜が主流になりました。六曜も古くからあったのですがとてもマイナーなものだったんですね。
そしてこの「おばけ暦」の中に「三隣亡」がありました。そして先ほどの書籍にもあったように庶民の間で「建築の大凶日」として大流行したのです。
三隣亡は迷信
三隣亡は由来のはっきりしない凶日で、幕末から明治以降に庶民の間で特に流行して信じられていた凶日です。こういった暦注に当たるものは六曜だって十二直だって全部、迷信や俗信ではあるのです。しかしだからと言って、全てが嘘だということはありません。
古くから信じられていることには、今はわからなくても意味のあることも多いですし、何より「人が信じてきたこと」そのものが強い力を発揮するためです。
山形県の三隣亡
三隣亡が迷信かどうかということの面白い事例として山形県の三隣亡についてご紹介します。
現在, 山形県内のみに定着している年間 を通しての三隣亡 (以下, 「年間三隣亡」 と表す) は, 旧暦ベースでの 1 年間を通して継続的なもの で, 寅, 午, 亥の年の立春 (2 月 4 日) から翌年 の節分 (2 月 3 日) までがこれに該当する。
なんと山形県では、年間を通しての三隣亡があり、寅, 午, 亥の年は実際に建築件数が激減するのだそうです。
この件について下記の湯野沢熊野神社の宮司さんが「三隣亡は昔は吉日だった、現代でだって年間の三隣亡とか気にしないでしっかり地鎮祭してから建てれば大丈夫!」と書かれています。
何もかもを俗信、迷信と片付けることは簡単ですが、気になるならしっかりとお祓いや地鎮祭を行えばいいのです。家の建築は一生物…不安ならお祓いですよ。
三隣亡にやってはいけないこと
それではこの三隣亡にやってはいけないことです。
三隣亡やってはいけない、建築、地鎮祭、棟上げ
三隣亡は暦注の一つで「建築関係者の大凶日、棟上げや土起こしなど建築に関することは一切忌むべき日、この日に建築を行うと火災がおこり、近隣三軒を焼きほろぼす」となっています。そのため、棟上げ、地鎮祭、土起こしなどはやってはいけません。
建築をやってはいけない日は下記になります。
三隣亡に契約してしまった
三隣亡に契約を結ぶ…これが家関係ならやらない方がいいでしょう。
最近の銀行さんではローンの契約に吉日というのは流行らなくなりましたが、個人的には建築関係のローンなら三隣亡や地火日、大禍日などは避けた方がいいと思いますよ〜。
三隣亡に土いじり
三隣亡にガーデニングなどの土いじりをしても問題ありません。
ダメなのは建築関係の土起こしです。これは着工のことになりますので、家ならば修繕でも着工しないということですね。
三隣亡に墓参り
三隣亡に墓参りしても問題はありません。三隣亡に墓参りを避けるという方もいますが、多分これは三隣亡は土関係の禁忌と思わせるところがあるためです。そのため埋葬を避ける方もいるそうです。
三隣亡にお墓の建立や大規模修繕はやめた方がいいですが、それ以外の墓参りや埋葬にはもんだありません。
三隣亡に納車
三隣亡は建築関係の凶日です。そのため納車には関係がありません。しかし、どうしても気になるなら納車日はいくらでもずらせますよ〜。気になるならずらす、そうすることで気持ちが晴れて運気が上がります。
三隣亡に引越し
三隣亡は建築関係の凶日です。そのため引越しや家具の配置変更など、住宅に関わる作業は禁忌と考える人もいるようです。個人的には「建築関係者の大凶日、棟上げや土起こしなど建築に関することは一切忌むべき日、この日に建築を行うと火災がおこり、近隣三軒を焼きほろぼす」ですので、引越しは関係ないのではと思います。
三隣亡にお祝い
三隣亡は建築関係の凶日です。そのため、建築すること以外のことは特に「さわりなし」なのです。
しかし、結婚などのお祝い事、宝くじの購入、新しい財布の購入・使用といった慶事にミソがつくのを嫌がる人も多いでしょう。そのため、お祝い事を避けるのもいいと思いますよ。
三隣亡に入籍と結婚
結婚や入籍といった「これからの人生を建てていく」ことは建築と同じく避けるべき、という人も多いです。
個人的にはこじつけだと思いますが、結婚や入籍は人生にとって非常に重要な日です。「この日以外にできないのよ〜〜〜」や「この日が二人にとって特別な記念日」といった場合でなければ、そういった日に凶日を選ぶ必要はありません。不安なら避けましょう。
三隣亡と仏滅
六曜の仏滅(ぶつめつ)は「すべてのことに悪い日」で、三隣亡は建築関係の凶日です。
二つが重なると非常に良くありませんので、それぞれ建築や仏滅に避けるべきことはしない方がいいでしょう。
三隣亡と一粒万倍日
一粒万倍日のような吉日と三隣亡のような凶日が重なると、それぞれの吉凶が半減すると言われています。
三隣亡と大安
大安のような吉日と三隣亡のような凶日が重なると、それぞれの吉凶が半減すると言われています。
さんりんぼうの呪い
このさんりんぼうですが、この日のできる呪いがあると言われています。
三隣亡に野菜や魚などなんでもいいから生鮮食品を手に入れて、それを憎い人の家の敷地に隠しておき、それが完全に腐ると相手に呪いがかかる
というものです。三隣亡の成り立ちを考えるとちょっと無理のある呪いですが、呪いって人の心が集まれば集まるほど強くなります。
そう信じる気持ちがそうさせるのです。三隣亡は長いこと「凶日」とされてきましたので、効果も出るのでしょう。
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