ハロウィンの夜、後ろから足音が聞こえても振り返ってはいけない。出かけるなら、ポケットにはパンと塩。魔女に会いたい人は、服を裏返しに着て後ろ歩きをする。
ハロウィンの迷信やジンクスには、そんな不思議な話がいくつもあります。お化けを遠ざけるためのものもあれば、わざわざ魔女を探しに行くものもあるのですから、なかなか忙しい夜ですね。
10月31日は、仮装とお菓子のお祭りであると同時に、死者や精霊が人間の暮らしのすぐそばへやってくると語られてきた夜。各地の伝承や迷信集をのぞくと、ちょっと怖くて、どこか人間くさいハロウィンが見えてきます。
ハロウィンの迷信とジンクス|幽霊や魔女にまつわる不思議な言い伝え
ハロウィンの迷信は、国や地域、語り手によって少しずつ違います。同じ動物が魔女の仲間だったり、亡くなった家族の使いだったりすることも。まずは、夜道や家の中にまつわる言い伝えから見ていきましょう。
ハロウィンの日没後は、一人で旅をしない
ハロウィンの夜には、悪霊や妖精が出歩くので一人で旅をしてはいけない、という言い伝えがあります。アイルランドの風習を紹介する資料にも、この夜の一人歩きを避けたことが記録されています。
昼間なら見慣れた道でも、暗くなると木の影や風の音が気になってくるものです。そこへ「今夜は人間以外のものも歩いている」と聞かされたら、いつもの帰り道まで違って見えてきそうです。
旅を日没までに終えるという迷信も、こうしたハロウィンの夜の怖さと結びついています。明かりのある家へ帰れば安心できるのに、外には何がいるかわからない。その境目が、いつもより強く意識された夜なのです。
後ろから足音が聞こえても、振り返ってはいけない
ハロウィンの夜、背後から足音が聞こえたら振り返らないこと。英語圏の迷信集には、その足音は、後ろをついてくる死者のものかもしれないという話が登場します。
顔を見なければ、ただの通行人かもしれません。けれど、振り返ってしまえば相手が何者なのかわかってしまう。そう思わせるところが、この言い伝えの怖さです。
日本の怪談にも通じるような、見てはいけないものほど見たくなる話ですね。これは夜道の伝承として楽しむもので、実際に人の気配や危険を感じたときは、明るく人のいる場所へ移動してください。
パンと塩をポケットに入れると、魔除けになる
ハロウィンに外へ出るときは、塩で十字をつけたパンを持つと悪いものから守られる、という迷信も紹介されています。パンと塩という、食卓にあるもので夜道に備えるのです。
この話では、パンはただのお弁当ではなく、お守りのような役目を持っています。大げさな道具を用意するのではなく、普段の暮らしにあるものをポケットへ忍ばせる。その小さな備えが、いかにも民間のおまじないらしいところです。
小さなパンを持っているだけで、一人きりの道でも少し心強くなる。パンと塩を身につけて、見えないものに備えるという迷信には、夜道を歩く人が、自分を守るために何かを持っていたいという気持ちも感じられます。
ハロウィンの蜘蛛は、亡くなった人が見守る姿
ハロウィンに蜘蛛を見かけたら、それは亡くなった大切な人があなたを見守っているのかもしれない。蜘蛛には、そんな少し優しい迷信もあります。
ハロウィン飾りでは、蜘蛛や蜘蛛の巣は不気味な屋敷につきものです。ところが言い伝えの中では、怖がらせる役ばかりではありません。小さな蜘蛛の姿を借りて、懐かしい人が様子を見に来ているのです。
同じ蜘蛛でも、そう聞くと少し印象が変わります。魔女のそばにいる生き物として語られる一方で、家族の気配を感じさせる存在にもなる。ハロウィンの迷信は、怖い話だけではないのですね。
魔女に会いたいなら、服を裏返して後ろ歩き
魔女を遠ざける話がある一方で、わざわざ会いに行くための迷信もあります。ハロウィンの夜、服を裏返しに着て後ろ歩きをすると、魔女に会えるというものです。
民話を紹介するAmerican Folkloreにも、この話が載っています。普通の人に見られたら説明に困りそうな格好ですが、異界の相手に会うには、こちらもいつもとは違う姿になるわけです。
表を裏へ、前を後ろへ。普段の順序をひっくり返すだけで、見えない世界に近づくような気がしてくるから不思議です。暗い道を後ろ向きに歩くのは危ないので、魔女探しは言い伝えの中で楽しんでくださいね。
夜11時から真夜中まで、ろうそくの火が消えなければ守られる
イングランドのランカシャーには、ハロウィンの夜11時から真夜中まで、火のついたろうそくを持って丘を歩くという風習が記録されています。火が燃え続ければ、その季節は魔女の悪意から守られると考えられていました。
面白いのは、魔女の側もただ見ているわけではないことです。言い伝えでは、魔女たちはろうそくの火を消そうとします。それでも炎が揺らがず残れば、人間の側の勝ち。消えてしまえば、不吉な兆しとされました。
小さな炎を守りながら、暗い丘で真夜中を待つ。風が吹くたびに、火を消そうとしている相手の姿を思い浮かべてしまいそうです。古い民俗誌『Lancashire Folk-lore』には、この「魔女と灯り」の風習が紹介されています。
これは昔の風習の紹介です。夜の屋外で再現するのではなく、火を使う場合は安定した燭台を使い、そばを離れる前に消してください。願いを込めるキャンドルの作法は、ハロウィンのキャンドルマジックで紹介しています。
フクロウの声が聞こえたら、ポケットを裏返す
フクロウの声を不吉に感じたら、ポケットを裏返して身を守る、という迷信もあります。暗闇から聞こえてくる声と、服の裏表を変える魔除けが組み合わさった話です。
魔女に会いたいときも裏返し、見えないものから身を守りたいときも裏返し。同じような仕草でも、話によって目的が変わります。迷信を集めていくと、必ずしも一つの決まりにまとまらないところも面白いのです。
ハロウィンに鈴やベルを鳴らすと、悪霊が逃げる
鈴やベルを鳴らすと悪霊を追い払える、というハロウィンの迷信もあります。こちらは、仮面で隠れたり、お守りを持ったりする方法とは違い、音で存在を追い返す魔除けです。
静かな部屋に、澄んだ音が一つ響く。それだけで空気が変わったように感じることがあります。見えない相手に向かって音を鳴らすという発想には、暗闇の中でも自分たちの場所を守ろうとする力強さがあります。
ハロウィンは万聖節のイブ|死者が戻る夜といわれる由来
ハロウィンという言葉は、「All Hallows’ Eve(オール・ハローズ・イブ)」、つまり諸聖人の日の前夜に由来します。11月1日が万聖節とも呼ばれる諸聖人の日、その翌日11月2日が、亡くなった人のために祈る万霊節です。
この三日間には、聖人を記念する日と、死者を想う日が続いています。お化けの仮装でにぎわう夜のすぐ先に、静かに祈りを捧げる日がある。その並びを知ると、ハロウィンの明るさと怖さが、少し違って見えてきます。
復讐に燃える幽霊に、顔を覚えられないようにする
仮装の由来を説明する話の一つに、万聖節まで地上をさまよう死者が、あの世へ向かう前に、生前の恨みを晴らそうとするというものがあります。人間はその幽霊に見つからないよう、顔を隠して別の姿になるのです。
幽霊にも、会いたい相手と、会って仕返しをしたい相手がいる。そんな話を聞かされたら、昔のちょっとした意地悪まで思い出して、仮面を深くかぶりたくなるかもしれません。
これは仮装に結びつけて語られる怖い説明の一つで、キリスト教の共通の教えというわけではありません。万霊節そのものは、死者の復讐を恐れる日ではなく、亡くなった人のために祈る日です。怖い幽霊の話と、大切な人を想う祈りが、この季節には隣り合っています。
万霊節には、亡くなった家族のために祈る
カトリックの万霊節には、死者のための祈りが捧げられ、墓地を訪れたり、お墓を整えたりする習慣があります。生きている間に一緒に過ごした人を、亡くなった後も忘れずに想う時間です。
ハロウィンの話には恐ろしい霊も登場しますが、帰ってくる死者をすべて追い払いたいわけではありません。懐かしい人なら迎えたい、悪いものには近づいてほしくない。その両方の気持ちが、灯りや仮装、家を守る風習の中に表れているのでしょう。
サウィンとハロウィン|収穫の終わりに、妖精や死者が訪れる
ハロウィンの背景には、アイルランドやスコットランドなどに伝わるサウィンの風習もあります。収穫の終わりと冬の始まりを迎える節目で、祝いは11月1日の前夜から行われました。
明るく活動的な季節から、暗く長い冬へ。その境目には、人間の世界と、死者や妖精の世界の隔たりも薄くなると考えられていました。帰ってくるのは家族の霊だけではなく、人を惑わす存在かもしれないのです。
食べ物を囲んで楽しみながら、外の闇にも気を配る。ハロウィンが収穫のお祭りであり、お化けの夜でもあるのは、そんな二つの顔を持っているからなのですね。
妖精のためのごちそうには、塩を入れない?
アイルランドの民俗資料には、ハロウィンに作るコルカノンという料理の、最初の一皿を妖精のために取っておく話が残っています。その取り分には、塩を入れないことになっていました。
パンと塩で悪いものを遠ざける話がある一方で、こちらは妖精のために塩抜きの料理を用意するのです。見えない相手だからといって、何でも同じもてなしでは済まないらしいところが、なんとも細やかです。
この話は、アイルランドの民俗資料を公開するDúchasの「Halloween Customs」に収められた、ゴールウェイ地方の記録で読めます。死者を迎える話とはまた違う、妖精と人間の暮らしの近さが感じられます。
サウィンのかがり火と、11月5日のガイ・フォークス・ナイト
ハロウィンの風習には、大きなかがり火も登場します。スコットランドでは、夜にうろつく悪いものを遠ざけるための火とされ、人々が集まる場所を明るく照らしました。
一方、イギリスで11月5日に行われるガイ・フォークス・ナイトは、1605年の火薬陰謀事件に関係する別の行事です。花火やかがり火、人形を燃やす習慣があります。
時期が近く、どちらにも火が登場するので似て見えますが、もとになる出来事は異なります。秋の夜に集まって火を囲む風景にも、魔除け、季節の祝い、歴史上の事件と、いくつもの背景があるのです。
ハロウィンに仮装するのはなぜ?お化けの仲間に紛れる魔除け
ハロウィンの仮装は、霊や妖精に正体を知られないようにする姿として説明されてきました。スコットランドには、子どもが霊や妖精にさらわれないよう、姿を変えさせたという伝承もあります。
お化けが怖いから、自分もお化けになる。相手の仲間に紛れ込んでしまえば、人間だと気づかれないという作戦です。魔女や幽霊の格好には、怖がらせる楽しさと、身を守る願いが重なっています。
ジャック・オー・ランタンは、もともとカブの怖い顔
仮装と並ぶハロウィンの魔除けが、顔を彫ったランタンです。今ではオレンジ色のかぼちゃがおなじみですが、アイルランドではカブなどの根菜で作られていました。
丸いかぼちゃなら、少し愛嬌のある顔にもなります。ところが、カブのランタンは白っぽい顔に深い目や口が彫られ、かぼちゃとはまた違う不気味さがあります。暗い道で急に見えたら、人間のほうが先に逃げ出しそうです。
この根菜のランタンがアメリカでかぼちゃを使う形へ発展し、今のハロウィンの姿につながりました。ランタンやかぼちゃに込める魔除け・収穫の意味は、ハロウィンのスピリチュアルな意味でも紹介しています。
トリック・オア・トリートの意味と由来|お菓子と引き換えに何をする?
「トリック・オア・トリート」は、「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!」というおなじみの言葉です。魔女やお化けの姿をした子どもたちが家を訪ね、お菓子を受け取ります。
この風習の背景には、仮装して近所を回る習慣や、死者のために祈る代わりに食べ物をもらう習慣などがあります。いくつもの風習が重なってきたもので、一つの出来事だけから生まれたわけではありません。
昔の子どもたちは、歌や冗談を披露してお菓子をもらった
スコットランドの「ガイジング」では、仮装した子どもたちが家を訪ね、歌や話、冗談などを披露して、お菓子や食べ物をもらいました。
ただ袋を差し出すだけではなく、訪ねた側にも出し物があるのです。怖い格好で玄関に現れた小さな訪問者が、ひとしきり人を楽しませてからごほうびをもらう。今のトリック・オア・トリートにも通じる、にぎやかな光景です。
ソウル・ケーキは、死者のための祈りと引き換え
イングランドなどには、「ソウリング」と呼ばれる習慣もありました。家々を訪ねて死者のために祈ることを約束し、ソウル・ケーキなどの食べ物をもらうものです。
お菓子を渡す家、受け取る訪問者、祈りを捧げられる亡き人。食べ物のやり取りの中に、生きている人同士のつながりと、死者への想いが一緒に入っています。甘いお菓子のお祭りにも、こうした静かな一面があるのですね。
トリック・オア・トリートを断ると、いたずらされる?
昔のハロウィンには、戸をたたいて逃げるなどのいたずらもありました。古い風習の紹介には、門や荷車を動かしたり、キャベツを使って驚かせたりした話まで出てきます。
ただ、お菓子を断った家に必ずいたずらをする、という決まりではありません。「いたずらするぞ」という言葉を掛け合いとして楽しむことと、実際に家を汚すことは別です。今楽しむなら、参加している家やイベントの決まりの中で、気持ちよくお菓子をやり取りしたいですね。
ハロウィンの恋占い|りんごや木の実で未来の恋人を探す
死者や魔女が近くなる夜は、未来のことも知ることができるのではないか。ハロウィンには、そんな期待を込めた恋占いも伝わっています。怖いものは避けたいけれど、未来の恋人は見てみたい。なかなか正直な願いです。
アップルボビングと、りんごにまつわる占い
水に浮かべたりんごを、手を使わず口で取る遊びがアップルボビングです。うまくかじろうとしても、りんごは水の上をするりと逃げます。ハロウィンには、収穫した果物を使うこんな遊びも楽しまれてきました。
りんごは、遊びだけでなく恋占いにも登場します。皮を長くむいて未来の相手の名前を占う話や、鏡に相手の姿を求める話などもあります。お化けが映るのは困るのに、未来の恋人なら映ってほしい。同じ鏡でも、願いによって怖さと期待が入れ替わるのです。
木の実の燃え方で、二人の恋の行方を占う
スコットランドには、二人に見立てた木の実を火に入れ、燃え方で相性を見る占いも伝わっています。音を立てたり、静かに燃えたりする様子を、これからの関係に重ねました。
小さな木の実の動きに、好きな人の気持ちを探す。恋をすると、ほんの些細なことにも答えがほしくなるのは、昔も変わらなかったのでしょう。
こうした恋占いや、ハロウィンの夜に行うおまじないの材料・手順は、ハロウィンのおまじないと復縁・恋占いにまとめています。
メキシコの「死者の日」はハロウィン?骸骨とごちそうで迎える家族
ハロウィンと時期が近く、骸骨の飾りも登場するのが、メキシコの「死者の日」です。けれど、単にメキシコ版のハロウィンというわけではありません。先住民の信仰とカトリックの行事が重なり、大切な死者を迎える祭りとして受け継がれてきました。
メキシコ政府の解説には、先スペイン期の死者の祭礼が、現在の暦の8月初め頃にあたる時期に行われたという説明もあります。そこへヨーロッパから伝わった信仰や行事が重なり、今の死者の日へと姿を変えてきたのです。
祝い方には地域差があり、10月末から11月初め、とくに11月1日・2日が大切にされます。亡くなった家族や親しい人が一時的に戻ってくると考え、家やお墓で迎える用意をするのです。
花とろうそく、好きだった料理で帰り道を用意する
祭壇やお墓には、花、ろうそく、食べ物などが飾られます。亡くなった人が好きだった料理を用意し、写真や思い出の品を並べる。花びらや灯りには、帰ってくる魂を導く意味もあります。
暗闇から来るものを遠ざけるための灯りがある一方で、こちらは大切な人が迷わず帰ってこられるようにする灯りです。死者を迎えるといっても、その気持ちは、久しぶりの家族に好きな料理を用意することに近いのかもしれません。
メキシコの文化省の「死者に捧げる先住民の祭礼」の紹介でも、花びらやろうそく、故人の好物を使った迎え方が説明されています。
骸骨やドクロがあっても、怖がらせるためだけのお祭りではない
死者の日には、骸骨やドクロの意匠も登場します。ハロウィンの飾りと似て見えますが、そこには、亡くなった人を思い出し、再会を祝う気持ちがあります。
日本のお盆を思い浮かべると、少し身近に感じられるかもしれません。ただ、由来も祈り方も同じではありません。似ているのは、会えなくなった人を忘れず、帰ってくる場所を用意したいという想いです。
ハロウィンは、怖いものと懐かしい人が同じ夜にやってくる
足音がしても振り返らない。魔女には顔を知られないようにする。それなのに、亡くなった家族には会いたくて、ごちそうや灯りを用意する。ハロウィンの言い伝えには、そんな少し矛盾した気持ちが詰まっています。
怖いものを遠ざけながら、会いたい人は迎えたい。未来はわからなくても、恋の行方だけは少しのぞいてみたい。幽霊や魔女の話をたどっているつもりが、いつの間にか、生きている人の願いまで見えてくるのです。
季節の雰囲気をスマホでも楽しみたい方は、ハロウィンの待ち受け画像も選んでみてください。いつものかぼちゃや魔女の姿にも、今夜は少し違う物語が感じられるかもしれません。



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